ストレスチェックを始めるには、まず「実施者」を決める必要があります。クリニックでは「医師である院長が務めればよいのでは」と考えがちですが、院長・社長は自分の事業場の実施者になれません。
この記事では、実施者とはどんな役割か、なぜ院長・社長はなれないのか、では誰がなれて、院長・社長はどんな役割を担えるのかを解説します。
そもそも、実施者とは何をする人?
実施者は、ストレスチェックを実施し、個人の結果を直接扱う人です。
主な仕事は次のとおりです。
- 実施計画や、高ストレス者を選ぶ基準について意見を述べる
- 高ストレスと判定された人に、医師の面接指導が必要かどうかを判断する
- 結果を本人に通知する
個人の結果は、本人の同意がなければ事業者に渡りません(労働安全衛生法 第66条の10 第2項)。50人未満の事業場には産業医の選任義務がなく、社内に医療職がいないことも多いため、「誰が実施者になるのか」が最初につまずく点になります。
なぜ院長・社長は実施者になれないの?
解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ人は、実施の事務に従事できないと定められているためです。 院長が医師であっても同じです。
検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。 (労働安全衛生規則 第52条の10 第2項)
厚生労働省のQ&A(Q6-5)も、「病院長は一般的に人事権を持っていると考えられるので、実施者にはなれません」としています。
個人の結果を扱う人が、その人の処遇を決められる立場にあると、結果が処遇に影響しかねません。受ける側も正直に答えにくくなります。この規定は、それを防ぐためのものです。
ポイント:「人事権」ではなく「解雇・昇進・異動」
この規定は「人事権を持つ人」と紹介されることがありますが、条文の言葉は「解雇、昇進又は異動に関して」です。範囲はこの3つに限られます。また、制限は実施者だけでなく、実施者を手伝う「実施事務従事者」にも及びます。
実施者になれるのは誰?
医師・保健師と、所定の研修を修了した4つの資格の人です(労働安全衛生規則 第52条の10 第1項)。
| 資格 | 研修 |
|---|---|
| 医師 | 不要 |
| 保健師 | 不要 |
| 歯科医師 | 所定の研修の修了が必要 |
| 看護師 | 所定の研修の修了が必要 |
| 精神保健福祉士 | 所定の研修の修了が必要 |
| 公認心理師 | 所定の研修の修了が必要 |
この一覧は限定列挙です。臨床心理士や産業カウンセラーの資格だけでは、実施者になれません。
院長・社長が就ける役割は?
個人の結果を扱わない「実務担当者」には就けます(ストレスチェック指針 第6)。
ストレスチェックには3つの役割があります。
| 役割 | 院長・社長 | 主な仕事 |
|---|---|---|
| 実施者 | 就けない | 面接指導の要否の判断、結果の通知など |
| 実施事務従事者 | 就けない | 調査票の回収・集計、記録の保存、受検者との連絡 |
| 実務担当者 | 就ける | 実施計画の策定、外部機関との連絡調整、社内への周知 |
小規模の事業場では、この3つを1人で兼ねようとして混乱しがちです。院長・社長は実務担当者として制度を進める窓口を担い、実施者は社外の医師などに頼むのが基本の形になります。
外部に委託する場合
委託契約の中で、委託先の実施者と実施事務従事者を明示してもらう必要があります(ストレスチェック指針 第5(2)②)。社内への周知では、個人の氏名までは要らず、職名などで特定できれば足ります(Q&A Q2-3)。
まとめ
院長・社長は、医師であっても自分の事業場の実施者になれません。決め手は資格ではなく、解雇・昇進・異動に関する権限です。
実施者になれるのは、医師・保健師と、研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。院長・社長は「実務担当者」として制度を進め、実施者は社外に頼むことを考えてみてください。
きしべでは、当社と契約した医師が実施者を務めます。詳しくは次のページで説明しています。
→ 実施者について