2028年4月1日から、労働者50人未満の事業場もストレスチェックの実施が義務になります。ただし義務になるのは「実施」だけで、労働基準監督署への報告などは変わりません。
この記事では、なぜ今回の改正が起きたのか、何が変わって何が変わらないのか、いつまでに何から始めればよいのかを解説します。
そもそも、なぜ50人未満は「努力義務」だったのか?
50人未満の事業場は、法律の附則にある「特例」によって努力義務とされてきました。
ストレスチェックは、労働者の心の負担の程度を把握するための検査で、労働安全衛生法 第66条の10 に定められています。2015年12月に始まり、常時50人以上の事業場ではすでに義務になっています。
50人未満が努力義務だった根拠は、労働安全衛生法の附則第4条です。
第十三条第一項の事業場以外の事業場についての第六十六条の十の規定の適用については、当分の間、同条第一項中「行わなければ」とあるのは、「行うよう努めなければ」とする。
「第13条第1項の事業場」とは、産業医を選任しなければならない事業場のことです。50人という線は、労働安全衛生法施行令 第5条 から来ています。
2028年の改正で、何が変わるのか?
変わるのは、この特例がなくなることです。 2028年4月1日に附則第4条が削除され、50人未満の事業場も実施が義務になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2028(令和10)年4月1日 |
| 改正法 | 令和7年法律第33号(2025年5月14日公布) |
| 施行日を定めた政令 | 令和8年政令第195号(2026年6月10日公布) |
| 対象 | 規模を問わず、すべての事業場 |
| 頻度 | 1年以内ごとに1回、定期に(労働安全衛生規則 第52条の9 第1項) |
ストレスチェックを定めた第66条の10そのものは、一字も改正されません。施行通達(基発0514第1号)も、これを「特例の終了」と表現しています。
ポイント:ルールの中身は50人以上と同じ
新しい制度ができるわけではありません。実施者、面接指導、個人の結果の扱いなど、50人以上の事業場で2015年から運用されてきたルールが、そのまま50人未満にも適用されます。
2028年以降も変わらないことは?
報告義務、集団分析、受検の扱いは変わりません。
| 項目 | 2028年4月以降も | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署への報告 | 常時50人以上の事業場だけ。50人未満は不要 | 労働安全衛生規則 第52条の21/小規模事業場マニュアル p.6 |
| 集団分析・職場環境の改善 | 努力義務のまま | 労働安全衛生規則 第52条の14/小規模事業場マニュアル p.6 |
| 労働者の受検 | 受検義務はない | 小規模事業場マニュアル p.6 |
| 実施しなかった場合の罰則 | 実施義務そのものに罰則の規定はない | 労働安全衛生法 第119条・第120条 |
なお、2026年8月20日時点で、報告義務を50人未満に広げる改正案は労働政策審議会に諮られていません。
いつまでに始めればよいのか?
初回の実施期限は、法令にも通達にもマニュアルにも定められていません。
参考になるのは、2015年に制度が始まったときの扱いです。厚生労働省のQ&A(Q1)は、施行後1年以内に実施する必要がある、としていました。同じ考え方をとると、2029年3月31日までに初回が目安になります。ただし、これは先例からの類推で、今回について明記された期限ではありません。
何から準備すればよいのか?
最初にやることは、実施者の確保です。 そのうえで、次の順に進めると準備しやすくなります。
- 実施者を確保する 50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、多くは外部に頼むことになります。院長・社長は実施者になれません(労働安全衛生規則 第52条の10 第2項)。厚生労働省のマニュアルは、プライバシー保護の観点から外部への委託を推奨しています(小規模事業場マニュアル p.11)。
- 実務担当者を決める 計画づくりや外部との連絡を担う人です。衛生推進者が兼ねることが望まれており、院長・社長も就けます(小規模事業場マニュアル p.12、ストレスチェック指針 第6)。
- 方針を示し、実施規程を定めて周知する(ストレスチェック指針 第5・第6)
- 関係労働者の意見を聴く機会を設ける 50人未満には衛生委員会がないため、朝礼や定例の打合せなどで行います(労働安全衛生規則 第23条の2)。
- 受検の対象者を確かめる 対象は「契約期間」と「週の労働時間」の2つの要件を満たす人です(労働安全衛生規則 第52条の9、小規模事業場マニュアル p.6)。
まとめ
2028年4月1日から、50人未満の事業場もストレスチェックの実施が義務になります。起きるのは特例の終了で、ルールの中身は50人以上の事業場と同じです。報告義務と集団分析の扱いは変わりません。
初回の期限は法令にありませんが、先例にならえば2029年3月末が目安です。まずは実施者をどう確保するかから考えてみてください。実施者の確保には、自社で行う・外部に委託するなどの選択肢があり、それぞれ役割が違います。